「グローバル化」とは、単に英語化することではない
予算委員会も終盤にさしかかると、分科会が開かれます。分科会とは、各省庁別にみっちり一日かけて(朝8時から始まり、夜8時に終わります!)質疑を行うものです。
私は、今年は第四分科会(文部科学省所管)で質疑をさせて頂きました。テーマは、東京大学理学部における「グローバルサイエンスコース」について。そして、大学ランキングについてです。
東京大学理学部では、昨年からグローバルサイエンスコースという編入プログラムが設置されました。世界中から優秀な留学生に来てもらい、講義も全て英語で行い、英語のみで修了することができるというものです。
昨年は、このコースで理学部化学科に7名の留学生が入学しました。内訳は、中国の大学から6名、米国の大学から1名ということですが、国籍は全員が中国籍。さらに奨学金が毎月15万円、宿舎は無償貸与、その他にも手厚い支援があるようです。
そして、学部3回生から、全ての講義を英語で行うこととしています。これは日本人学生も対象です。
「グローバル化の時代だから、大学もグローバル化しなくてはならない」そういうことがよく言われるようになりました。そして、グローバル化=英語による教育と読み替えられ、あらゆるものが英語による教育に変えられようとしてています。
この東大グローバルサイエンスコースで問題にしたかったのは、入学した留学生が全員中国籍であるということもさることながら、日本の最高学府たるべき東京大学が、外国語で講義を行うようになったということです。これは本当に由々しき問題であると思います。
かつて、明治維新の頃の日本は、発展途上国でした。欧米の最先端レベルの講義を受けたくても、日本語でその講義をすることができる人材がいませんでした。そのため、その頃の日本政府は、お雇い外国人を数多く雇い、それぞれの国の言葉で講義をしてもらい、日本人はそれを必死で習得していきました。当然、その講義を理解するためには外国語を習得しなくてはならず、これも必死で勉強したのです。
その結果、当時の日本人学生の語学力は、ものすごく高いレベルであったことが想像できます。実際、その頃のお雇い外国人は、「日本人はすごい。母国と同じ講義をすることができる」と感嘆していたそうです。その頃の日本人学生は、今風に言えば、まさに「スーパーグローバル人材」だったのでしょう(笑)。
しかし、その後、日本は外国語による高等教育をやめ、日本語による教育へと変えていきました。世界最高水準の講義を日本語で行うことができるように、あらゆる言葉を翻訳し、訳語を創り出し、様々な科学を「国産化」していったのです。自然科学・社会科学・芸術や哲学まで、ありとあらゆるものを国産化していきました。日本は、「日本語」という言葉の面からも近代化に成功したのです。
母国語で世界最高水準の講義を受けることができる国は、実はそれほど多くありません。欧米先進国と日本くらいなのです。そして、母国語で教育を行うことが、どれほど高い教育効果を産むか、その好影響は計り知れません。
この東大のグローバルサイエンスコースは、その日本の強みである「母国語による世界最高水準の講義を受けることができる環境」を自ら捨て去り、明治維新の頃の発展途上国型の教育に時計の針を戻すことになるのではないか。そのことが大変心配なのです。
日本の科学者のレベルは、ノーベル賞受賞者を毎年のように出すほどに成熟しています。これは、日本の科学教育が決して間違っていない、特に、日本語で教育を受けることのできる環境が何よりも寄与しているということを、質疑で訴えさせて頂きました。
なかなかこのグローバル化への流れを止めることは難しいとは思いますが、「グローバル化=英語化」、そして「英語で教育をする方が良い教育だ」という短絡的な発想で教育システムを変えていくことには、断固反対していかなくてはならないと思っています。
それともう一つ、今回の質疑の論点としたのは、大学ランキングについてです。文科省では、世界の大学ランキング・トップ100に日本の大学を10校入れるようにすることを目標に掲げています。
この大学ランキングでよく使われるものは、“Times Higher Education”という英国の高等教育専門週刊誌が実施しているものです。しかし、そもそも外国の民間企業が行っているランキングに、どれほどの意味があるのでしょうか。このランキングでは、米英の大学がずらりと上位にランキングされ、日本の大学では東京大学が23位にランク付けされています。
外国から教育内容を高く評価して頂くことはありがたいことですが、ランキングを上げるために教育内容や大学のあり方を変えてしまうのは、本末転倒だと思います。
今日本では、この大学ランキングを上げるために、「国際」の評価を上げることを実施しようとしています。この「国際」の評価を上げるためには、外国人教員や外国人留学生を増やすことが求められます。
しかし、この「国際」の評価を上げても、実は大学ランキングはあまり上がりません。「国際」の評価はわずかに7・5%しかポイントに加算されず、満点を取ったところで100点満点中7・5点にしかなりません。とても効果の悪い努力であると言えます。
大学ランキングで上位を目指すことに、大して意味を見出さないと同時に、大変効率の悪い努力をしているのが、この大学ランキング・トップ100に10校をランク入りさせるという目標です。
しかも、外国人教員の数を増やすということは、裏を返せば、日本人の教員を減らすということです。教員の定員を増やさない限り、そうなることは自明です。質疑では、大学ランキングの評価を上げるために外国人教員を増やすことは、日本人の教員(科学者の卵ですね)の職を奪い、結果的に日本の科学技術力の低下につながるのではないかという点について、懸念を申し上げました。
質疑の中で引用した『日本にノーベル賞が来る理由』(伊東乾著/朝日新聞出版)の中に、次のような一節があります。
『ある科学技術の業績を評価するとき、実は一番問われるのは「評価する側』です。きちんとした評価を下すためには、大変な労力や予算が必要不可欠なのです。一番面倒な部分を回避して、「舶来の評価」への追随と、根拠不明の権威主義がまかり通っているのが、今の日本の現実の姿です。』
これを紹介した後、「日本版大学ランキングや、日本版ノーベル賞を創設するつもりはありませんか」と、文科大臣に質問しましたが、残念ながら前向きな答弁は得られませんでした。
しかし、日本から世界の科学を評価し、発信していく努力は必要だろうと思います。これからも折りに触れ、このような意見を発信していきたいと思います。
-「ひろしの視点」第7号(2015年03月)より-
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