〈参考資料 2〉
平成30年7月21日

土木学会平成29年度会長特別委員会
「レジリエンスの確保に関する技術検討委員会」 治山・治水緊急提言

平成29年度土木学会会長 大石久和

土木学会では、平成29年度会長特別委員会として「レジリエンスの確保に関する技術検討委員会」を設置し、一年間の検討を経て、本年平成30年6月に『「国難」をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書』をとりまとめ、科学的に想定されている巨大災害の被害、ならびに、それに対する技術的対策の効果を技術的かつ定量的に分析し、それに基づいて合理的な対策を可及的速やかに「完了」することを、提案した。災害はいつ起こるか分からぬものであり、かつ、災害対策は災害が起こる「まで」に完了していなければ意味をなさないものだからである。

しかしその後、遺憾ながら、大阪北部の直下地震や、観測史上最高レベルの豪雨が西日本各地を襲い、多くの貴重な人命が失われた。例えば、今回の豪雨による小田川の堤防決壊は、かねてより技術的にそのリスクが指摘され、数十年間にわたってその対策が検討され、まさに対策を始める直前に生じたものだった。速やかに対策が完了していれば、この度の甚大な被害が回避できていた可能性が極めて高い。慚愧の念に堪えぬところである。

ついては本委員会では、本年6月の報告書提言、ならびに、本委員会河川分科会からの特別提言(別紙)を踏まえ、以下を提言する。


(1)地球温暖化による豪雨の頻発傾向と降雨の激甚化はもはや疑いなきものであり、日本のあらゆる場所において、今後大規模・広範囲な水害・土砂災害が発生する。政府は民心の安定、公共福祉の増進のために、抜本的な治山・治水対策を早急に実施・展開しなければならない。

(2)災害対策は、累積対策費が同一であっても、早く完了していればいるほどに累積の死者数と経済被害を縮減でき、かつ、被災後の政府支出増と経済被害による税収減を共に抜本的に軽減できる。すなわち「事前防災」こそが災害対策における最重要課題なのであり、この点を踏まえ、「将来世代を含む世代間の公平負担」を前提としながら資金を調達し、可及的速やかに対策を完了しなければならない。

(3)政府が国土強靱化基本計画にて構想する『1人の命も失わない』という理念に基づく『国家百年の大計』を見据えた上で、本委員会が提唱する「15年で達成すべき強靱化目標」を、それぞれの災害、地域毎に速やかに決定しなければならない。

(4)その「15年の強靱化目標」の設定にあたっては、各地域、各災害毎の災害の確率、被害想定、対策の費用と効果、ならびに長期金利等を総合的に勘案しつつ、15年で完了することが合理的であると判断できる対策を割り出していくことが必要である。ついては、政府あるいは国会は、「合理的な対策を可及的速やかに明らかにする事」、および「明らかにされた諸対策を推進する事」のために必要な財政措置を臨時的、かつ、緊急的に法定化していくことが必要である。

(5)治水の目標設定、その事業推進のためのマネジメント、および、施策推進の基本的な考え方の技術的内容等については、別紙の「河川分科会提言」を参照されたい。


別紙




平成30年7月21日

レジリエンスの確保に関する技術検討委員会河川分科会緊急提言

レジリエンスの確保に関する技術検討委員会河川分科会 山田正

土木学会(平成29年度会長:大石久和)は、国難とも言える規模の地震や風水害に対して我が国のレジリエンスの確保に関する技術検討委員会(委員長:中村英夫)を立ち上げており、当委員会からの報告として国難をもたらす巨大災害についての技術検討報告書を取りまとめ発表した(本年6月)。一方、土木学会の常置委員会の一つである水工学委員会においては、3年前の鬼怒川常総市を襲った洪水災害や一昨年の北海道での水害、そして昨年の九州北部水害、さらに本年の西日本水害を調査・研究してきた。

本緊急提言書は、上記報告書並びに研究成果を踏まえ、人命を守り、浸水被害を軽減・防護し、強靱な国土とするための今後の治水対策の在り方について、以下のとおり緊急提言するものである。

【本提言の前提となる我が国の状況認識】

(1)現状の我が国の土地利用は、戦後高度成長時代の都市部における無秩序なスプロール化や過剰な植林と不適切な管理状況による森林飽和に伴う流木や土石流のリスクの高い地区等災害脆弱性の高い地域への市街化を進行させてしまっており、今や、人口減少にともなう高齢化の進行による災害脆弱性の更なる増大と経済弾力性の低下による被害長期化の可能性が非常に高まっている。

(2)上述したことに加え、降雨の激甚化が進行しており、明らかに現在の災害対策についてパラダイムシフトが存在すると認識せざるを得ない。このため、今次災害を契機として、危険な都市周縁部から安全かつ集中投資の可能な都市部への回帰・コンパクトシティ化を含めた人口減少時代の日本の望ましい国土のあり方を根本から見直すとともに、将来を展望した総合的な豪雨災害対策に関する法的・制度的変革を必要としている。

【本提言の基本的考え方】

(1)地球温暖化による豪雨の頻発傾向と降雨の激甚化はもはや疑いなきものであり、日本のあらゆる場所において、今後大規模・広範囲な水害が発生する。政府は、民心の安定、公共福祉の増進のために、抜本的な治水対策を早急に実施・展開しなければならない。事後的な対応では人命や経済被害を免れず税収へも悪影響も発生するため、豪雨の激化を前提とした事前の防災対策を徹底的に強化すべきである。

(2)従来、治水対策においては人生に一回程度遭遇する可能性のあるL1レベルの降雨に対して、主に堤防・ダム等の治水施設で対応する計画としてきた。今後、抜本的な治水対策を実施・展開するにあたっては,L2レベル(想定される最大級の洪水)までを対象とし、河川空間だけでなく、津波防災地域づくり法にあるような、流域や氾濫原全体を視野に入れた、適正な土地利用等を含む総合的な洪水リスク低減のためのマネージメントを早急に行うべきである。なお、将来降雨の増加量には不確実性が内在しているので、メタ計画の下に、段階的なマネージメントを展開するべきである。

(3)中小河川の氾濫原においては,降雨から氾濫までの時間が非常に短く,水害被害軽減のための洪水予警報や避難勧告・指示等の対策が有効に機能しない可能性が高い。そのため,生命にかかわる浸水が想定される場所については,積極的に土地利用計画や立地適正化計画等によって,洪水リスクに応じた適切な土地利用・施設配置を展開すべきである.したがって、長期的には、人口減少化における我が国の方向性を確立することを目的として、その土地のリスクとわが国の人々の住まい方を含む国土利用のあり方に関する議論を深めていく必要性がある。

【具体的な施策提言】

(1)各主体によって展開・実施される対策を総合的にとりまとめ,中長期的な予算的な裏打ちを持った計画の下に事業を実施するため、緊急措置法等の法律的な裏打ちとそれに基づく行政組織の総合化が必要である。

(2)具体的に実施する緊急事業は緊急国債を起債し、この財源の下に速やかに国土全体のストレスチェックを行い必要な対策を割り出し、事業を実施する。

(3)緊急事業後に計画的に実施すべき降雨の激甚化に対する緊急洪水被害軽減マネージメント計画(仮称)を作成し、実行する。また、事業の進捗管理を行うために5年程度毎にPDCAを回すマネージメントシステムの構築を図る。なお、緊急洪水被害軽減マネージメント計画(仮称)に基づいて実施される事業は国民の福祉向上を目的とすることを鑑み、政府は上記PDCAマネージメントを適切に持続的に運用するための財源を調達する。

(4)合理的・効率的な治水対策を展開するために、必要に応じ河川管理者の管理区域(大臣管理区間と知事管理区間)を変更・再調整することにより、氾濫原の安全度を向上させる。

(5)避難に関する情報を高度にかつ効率的に伝達するためのハード対策とソフト対策を充実させる。さらに、豪雨による浸水域が大規模・広域化している現状を勘案し、広域的な被害想定等が適切に行え、首長等の意思決定を支える危機管理の専門家を育成する。

(6)災害を受けた地域の復旧・復興を行う際には、地域の活力が維持・増進されるように、地方創生の観点も入れた総合的な復旧・復興が実施できるようにすることが肝要である。このため、産業構造が変化しつつあり、農業等の一次産業の基盤を強化する必要がある地域においては、被災地区だけでなく、総合的な復旧・復興対策が実施できるような制度、復興のための事前準備等の検討が急務である。このような復興思想は2015年第3回国連防災会議で採択され世界標準となった仙台防災枠組みの“Build Back Better”の考え方そのものである。


緊急洪水被害軽減マネージメント計画(仮称)のイメージ