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衆議院議員 税理士 あんどう裕

ひろしの視点

HIROSHI’S POINT OF VIEW

ひろしの視点

2018/12/13

カルロス・ゴーン氏逮捕の衝撃

日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏が逮捕されました。世界を揺るがすトップニュースとして世界中に報じられました。私自身もこのニュースを聞いたときは本当に驚きました。

あれほどの大企業で、経営者の報酬を正しく開示しないということはあり得ないと、今でも思います。実際に犯罪行為があったのかどうかは、いま捜査中ですから論評するのは差し控えます。ここでは、ゴーン氏という経営者が登場したことによって、日本の上場企業経営に大きな影響があったことを論じてみたいと思います。

ルノーに救済された頃の日産自動車は、確かに経営不振にあえぎ、どこも救済の手を差し伸べていない状況でした。「技術の日産」というブランドにおぼれ、経営改革もできないままに経営が悪化し続けるという状況であったのは事実でしょう。そこにルノーが名乗りを上げて、経営者として乗り込んできたのがゴーン氏でした。瞬く間に経営を立て直し、業績をV字回復させて世間を驚かせました。日産の救世主として社内外問わず尊敬され、求心力を強めました。ルノー本体においても評価は上がり、経営中枢として信頼される経営者となりました。

企業の業績をV字回復させるためによく使われる手法は、まず含み損を抱えている固定資産の売却、固定資産や在庫の評価損を行い、新経営者が就任した年には大赤字の決算にして徹底的に資産のスリム化を図る。つまり、過去のお荷物となっていた資産を整理して身軽になり、資産も売却できるものは売却して負債の返済に充て、次年度に備えるのです。この貸借対照表のスリム化を行うことが経営改善の第一歩となります。資産を縮小することは、翌年度以降の費用を削減する効果があります。

また、損益改善としては、取引先にも大幅なコストカットを頼みやすい状況であり、社員の解雇などリストラもやりやすい状況です。いわば経営危機を利用し、外国人による会社買収という劇薬を飲むことによって会社の体質を劇的に改善したのです。ゴーン氏は「コストカッター」とも呼ばれるように、非常に厳しくコスト管理を行っていたことは想像に難くないところです。

このコストカットの手法は、他の大企業に大きな影響を与えたものと思います。そして、親会社のルノーに多額の配当を支払い、自身も巨額の報酬を受け取ることとなります。

これらが、株主配当と役員報酬の大型化、株主中心の資本主義へと日本企業が変化していった大きなきっかけとなりました。取引先や従業員に対する支払いはできるだけ安く。配当は大きく。優秀な経営者にはそれにふさわしい報酬を。一つひとつの言葉は、経営理論的には「その通り」と思うものの、社会全体で見ると、経済の停滞をもたらし、格差の拡大を招く「新自由主義」の弊害が発生してしまうのです。

かつての日本型経営は、そうではありませんでした。以前の〝ひろしの視点〟でも紹介したソニーの前身、東京通信工業の設立趣意書にはどのような記述がされているか。以下に一部抜粋してみます。

 

東京通信工業株式会社設立趣意書 [抜粋]

1946年(昭和二十一年)1月、ソニーの創業者の一人、井深 大(最高相談役)が起草した。

一、不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず

一、従来の下請工場を独立自主的経営の方向へ指導・育成し、相互扶助の陣営の拡大強化を図る

一、会社の余剰利益は、適切なる方法をもって全従業員に配分、また生活安定の道も実質的面より充分考慮・援助し、会社の仕事すなわち自己の仕事の観念を徹底せしむ。

東京通信工業株式会社は、1958年(昭和三十三年)社名を現在のソニー株式会社に変更

 

利益は取引先にも従業員にも、適切に配分することが明記されています。株主配当の最大化や経営者報酬の最大化はうたわれていません。

ゴーン氏の登場が象徴的であったと思うのは、このような理念に基づく日本型経営が否定されて、欧米型の株主利益追求型の経営が推奨されるようになる転換期に登場した外国人経営者であったということです。日本企業が経営不振に陥っていた時にその不振を劇的に改善し、その経営手腕が評価され、他の企業の模範とされました。日本型経営は古い。日本人じゃだめだ。欧米人は優れている。新しい欧米型の経営に変わらなくてはならない。ほんの少し前までは「ジャパンアズナンバーワン」と言っていたのに、一気に逆の発想に転換していったのです。

この経営者の発想の転換と政府の緊縮財政が相まって、日本の長期停滞、デフレ不況が継続する大きな要因となりました。失われた20年、そして就職氷河期を生み出してしまい、第三次ベビーブームを起こすことが出来ずに、現在の人口減少社会となってしまう結果となっています。

これらの発想を転換し、利益は適切に関係者に配分し、未来への投資と社会に還元することが必要なのです。かつての日本企業がもっていた社会に貢献し従業員の生活を守る企業の思想を取り戻してもらいたいと切に願っています。

-「ひろしの視点」第51号(2018年11月)より-