ひろしの視点

「現代貨幣理論とは何か」

最近、米国で急に激しく議論が交わされている「現代貨幣理論(Modern Monetary Theory(MMT)、『現代金融理論』とも訳されます)」をご存知でしょうか。

新しい経済理論とも思えそうですが、実際は、現在の私たちが使っている「貨幣とは何か」、つまり「貨幣の本質」について説明している理論です。ところが、これが今、米国で大論争を巻き起こしつつあります。

なぜ、ただの「貨幣の本質」について説明しているにすぎない理論が大論争になっているのか。

それは、この理論が説明している「貨幣の本質」が、私たちが通常考えている「貨幣の本質」とまったく異なる概念だからです。

そして、私たちが普通考えている「貨幣」の概念と、実際の「貨幣の本質」が全く異なるということは、一般的に信じられていて正しいとされている「経済政策」も、「貨幣の本質」を間違えているために「経済政策全般を間違える」という現象が起きているということなのです。

通常私たちは「貨幣」とは「資産」であると考えています。例えば、労働することによって「貨幣」という資産を得、その貨幣を使うことによって貨幣という資産を減らす。国の借金である国債は、国民の資産である貨幣を借りることによって資金調達しているということであり、国民が預金などの貨幣を持っている間は国も国債を発行することができるが、そのうちに国民の預金という資産が枯渇してしまうので国債を発行することができなくなり破綻するということが一般に信じられています。

ところが、現代貨幣理論(MMT)は、下記のように主張しています。

貨幣の本質とは、資産ではなく負債である。ニクソンショックによって金本位制が完全に終わりをつげ、管理通貨制度に移行した現在においては、通貨とは金などの実体のあるものに裏付けられた「資産」ではなく、単なる帳簿記録上の「負債」に過ぎないものとなった。

国の経済成長を実現させるためには、政府は「財政赤字」であるのが通常の姿であり、政府が財政赤字を容認することによって民間に貨幣が新たに供給されるのである。政府が赤字を容認することにより、皆が豊かになる経済成長が実現するのである。

経済が成長するためには貨幣の供給を拡大していく必要があり、そのためには負債の拡大が必要である。そして、負債の拡大とは、「預金を持っている人がいるから借金ができる」のではなく、「借金をすることによって預金が生まれる」のである。銀行による「信用の創造」とは、「銀行が貸付を行うことによって預金通貨を新たに創造することができる」ということであり、これは「万年筆マネー」とも言われる。

この理論で衝撃的なのは、通常は「銀行は国民から預金を集め、その預金を企業などに貸し付けている」と考えられていますが、これがまったくの間違いであるということなのです。

銀行による融資とは、実際は下記のように行われます。

銀行は、融資を行うときにあらかじめ預金を準備しておく必要がない。「銀行が融資をする」、ということは、銀行から見て「貸付金」という「資産」と「銀行預金」という「負債」を「帳簿に書き込む」作業である。銀行がこの帳簿上の記録をすることによって企業は「銀行預金」という「資産」を得るとともに「借入金」という「負債」を負うことになる。(この作業をすることによって、銀行は「預金」という負債を新たに負うことになる。つまり、貨幣の本質とは負債である。)このように、銀行が帳簿に融資を記録することによって新たに預金通貨が発行されるのである。

このようなことを言われると「そんなばかな!」というように感じられるかも知れません。しかし、銀行実務は実際、このようになっています。もちろん、準備預金制度などがありますので、現実にはある程度の預金を集めることは必要ですが、融資の原理は上記の通りなのです。

私たちが日常使っている紙幣にも「日本銀行券」という印字がありますが、これは「日本銀行の負債である」ということを表しています。実際に日本銀行の貸借対照表を見ると、日本銀行の貸借対照表を見ると、現金は日本銀行券として「負債の部」に計上されています。

これらの「貨幣の本質」をもとに今後考えるべき政策を考えると、経済政策の柱は下記のようになります。

①管理通貨制度の下では、主権国家は自国通貨をもっている場合、通貨発行権を有するために、国債が破綻することはあり得ない。したがって、日本や米国などでは財政破綻を心配する必要がないので、必要な財政支出は財政赤字を気にすることなく拡大することができる。

②しかし、野放図な財政支出拡大を意図するものではなく、真の国債の発行制約はインフレ率による。

③租税とは、政策経費を賄うために徴収されるものではなく、インフレ率の調整や各種の政策目的のために徴収されている。政府の財源として考えるべきではない。

右記①については、日本の財務省もホームページ上で下記のように主張しています。

「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」(財務省ホームページ「外国格付け会社宛意見書要旨」より)

デフォルトとは「債務不履行」つまり「返済不能になること」を意味しますが、財務省は明確に自国通貨建て国債が返済不能になることはあり得ないと言っているのです。

これは、国は通貨発行権を持つ「中央銀行」が存在しているため、いくら国債の買い手がいなくても、言い換えれば国が借金したい時に国民の誰もが貸してくれない状態になったとしても、最後は中央銀行である日本銀行が貸してくれるし、貸してくれないことは通常考えられないので、国債発行により資金調達が不調に終わることは考えられず、したがって返済不能になることも考えられないということなのです。

実際に、日本銀行はすでに日本国債を466兆円も持っています。平成30年12月末現在の国債残高は1013億円ですが、そのうち46%は日本銀行の保有になっています。

皆さん、不思議に思いませんか?

日銀は、国債を466兆円も持っているのです。日銀は、いつからそんなに国債を買えるだけのお金を持っていたのでしょうか?

いいえ、日銀は当初からそんなお金は持っていませんでした。ところが、日銀は通貨発行権を持つので、国債を買い入れる時は「帳簿に記録するだけで買うことができる」のです。まさに「万年筆マネー」を実現しています。

実は、この理論については、私の主宰する「日本の未来を考える勉強会」では一昨年から取り上げていました。ぜひインターネットで勉強会の模様をご覧ください。この現代貨幣理論について解説している動画が3本あります。一昨年は「貨幣と租税」 。昨年は「貨幣と経済成長」。そして今年は「よくわかる現代貨幣理論(MMT)解説」というタイトルで見ることができます。

この理論がにわかに注目されたのは、米国の最年少女性下院議員のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏が「MMTを使ってもっと財政支出を拡大すべき」という主張をしており、これを理論的に支えているのが民主党大統領候補であるバーニー・サンダース氏の政策アドバイザーであるステファニー・ケルトン教授である、という構図です。

今年の3月13日のブルームバーグの記事です。

「現代金融理論」にわかに脚光
米財政赤字拡大や「AOC」効果で

(一部省略して転載します)

何年も無視されてきたMMTが、なぜ今になって突如、米国の経済論議の焦点となったかを巡っては当然、疑問が生じる。次に幾つか考えられる答えを挙げてみる。

MMTの論旨は、自国通貨を持つ政府の支出余地は一般的に想定されるよりも大きく、全てを税金で賄う必要はないというものだ。この見解によれば、米国はいかなる債務返済に必要な貨幣も創出できるため、デフォルト(債務不履行)に追い込まれるリスクはゼロということになる。

米国の政治にMMTを持ち込んだのはバーニー・サンダース上院議員だ。しかし、サンダース議員がMMTをはっきりと支持したことはない。

支持を明確にしたのはサンダース議員の選挙運動に参加したこともあるニューヨーク州選出の新人議員で、AOCの頭文字で知られるアレクサンドリア・オカシオコルテス氏だ。オカシオコルテス氏はMMTについて、「会話でもっと盛り上げる」べきだとし、議会がその「財政権」を動員するよう呼び掛けている。

MMTの措置を本格的に活用したとほぼ言える国は日本だろう。日本では20年前に金利がゼロに達し、日本銀行が一部ファイナンスしている公的債務残高はGDPの約2.5倍の規模にある。

赤字続きでもインフレ高進はなく、債券市場からの資金逃避の動きもない。

米国トップの大学の著名エコノミストは一斉にMMTを批判している。ハーバード大学教授で元財務長官のラリー・サマーズ氏は、「重層的な誤り」があると論評。ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏や、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストを務めたオリビエ・ブランシャール氏もMMT攻撃に加わった。と同時に、こうした著名人らから、公的債務懸念は行き過ぎだとして赤字拡大の支出に好意的な姿勢が見られるのも最近は多くなってきた。

ここでは、日本がすでにこのMMTを実際に意図しないうちに実証しているのではないかと指摘がされています。

この貨幣論の概念を「資産」から「負債」へと変えるのは、まさしく「天動説」から「地動説」へと概念を変更した「コペルニクス的転換」と言えるかも知れません。。今までの主流派経済学を使い、実践してきた経済学者から反発されるのは当然なのでしょう。実際に、この理論を米国で提唱しているケルトン教授は下記のように述べています。以下、4月17日の朝日新聞の記事より抜粋します。

「天動説から地動説へと私たちの考えが変わるまでには時間を要しました。いま私たちは租税が中心にあって、経済がその周りを回っていると考えています。増税がなければ、よい経済は築けないと。しかし、「コペルニクス的転回」は近づいています。じきに私たちは、租税は分配をコントロールしインフレリスクに対抗するものである、と考えるようになるでしょう。天動説から地動説へのような、思考の大きな飛躍が求められています」

今、日本では『消費税増税について最終的にどうなるのか』という議論がされています。

しかし、今日お話ししたように租税とは政策経費を賄うものではなく、インフレ率を調整するために存在するのだとしたら、また、自国通貨建ての国債が返済不能になることはあり得ず、日本の財政破綻の心配はまったくないのが本当だとしたら、大きく政策転換をする必要があるのではないでしょうか。

私の勉強会では、以前から貨幣の概念が重要である、という観点からこの現代貨幣理論を取り上げてきました。それに基づいて、消費税増税の凍結や減税を主張してきました。

ここで米国からこのような議論が沸き起こってきたことは、まさに「神風」というべきかも知れません。デフレ脱却ができずに苦しむ日本をきちんとした経済成長路線に戻すためにも、既存の誤った概念に基づいて立案される誤った経済政策を繰り返すのではなく、正しい貨幣の概念を理解し、経済成長を取り戻すための正しい経済政策を実践していかなくてはなりません。

財務省はこの現代貨幣理論を大いに警戒し、早速反論資料を取りまとめて公表しています。新聞記事にも必ず「異端の理論MMT」といった否定的なタイトルが並びます。

しかし、私は、長い間デフレから脱却できず貧困化する日本を成長路線に戻すために正しい政策を主張していきたいと考えています。

ぜひ日本の未来を考える勉強会の動画を見て、現代貨幣理論への理解を深めていただきたいと思います。ご希望であれば、私も説明に伺いますので、お声掛け下さい。

どうぞよろしくお願いいたします。


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