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衆議院議員 税理士 あんどう裕

ひろしの視点

HIROSHI’S POINT OF VIEW

ひろしの視点

2014/11/03

社会全体の発展に貢献する企業経営とは

ソニーが苦しんでいます。

9月18日の日経新聞に、ソニーが2014年三月期の連結業績見通しを下方修正すると共に、株式上場以来初の無配となるという記事が出ました。

ソニーと言えば、日本の戦後ベンチャー企業の雄。そして、様々な日本最先端の取り組みをしてきた企業というイメージがあります。

世界を席巻した「トリニトロンテレビ」。若者の文化を変えたとされる「ウォークマン」など、世界を驚かせるような製品を次々と作り出し、日本の製造業の戦後復活を強烈に世界に印象づけていきました。

ソニーの前身である東京通信工業株式会社設立時に、創業者である井深大氏が書いた「東京通信工業株式会社設立趣意書」は、今でもソニーのホームページに掲載されており、簡単に読むことが出来ます。

一部抜粋すると、「われわれの心からなる試みが、かくも社会の広範な層に反響を呼び起こし、発足より旬日(じゅんじつ)を経ずして新会社設立の気運に向かったことに対し、われわれは言い知れぬ感動を覚える。それは単にわが社の前に赫々(かっかく)たる発展飛躍を約束するばかりでなく、われわれの真摯なる理想が、再建日本の企業のあり方と、図らずも一致したことに対する大なる喜びからである」

つまり、戦後の混乱の中で、自分たちの理想とする工場を作ろうと自然発生的に出来た技術者集団が、手探りで始めた事業であったにも関わらず、その理想が戦後日本の再生の気運と図らずも一致したことに対する驚きと喜びがこの文章には凝縮されていると思います。

そして、会社設立の目的の第一には、有名ですが「真面目なる技術者の技能を最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工業の建設」というものが置かれています。これは、創業者たる井深大氏の崇高な理想が書かれていると言えるでしょう。

しかし、本稿では、「経営方針」に注目してみたいと思います。以下に一部抜粋してみます。

一、不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず。

一、経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する。

(中略)

一、従来の下請工場を独立自主的経営の方向へ指導・育成し、相互扶助の陣営の拡大強化を図る。

一、従業員は厳選されたる、かなり小員数をもって構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き、個人の技能を最大限に発揮せしむ。

一、会社の余剰利益は、適切なる方法をもって全従業員に配分、また、生活の安定の道も実質的面より充分考慮・援助し、会社の仕事すなわち自己の仕事の観念を徹底せしむ。

戦後ベンチャー企業として産声を上げたソニーが、なぜ日本を代表し、世界にその名を轟かせるような大企業になり得たのか。その理由は、この経営方針にあると思います。

経営方針にあると思います。

特に注目して頂きたいのは、次の二点です。

まず、下請企業との関係です。下請企業も、独立して自主的経営が出来るように育成し、かつ、お互いに助け合って共に繁栄していく仲間の拡大を図る。今の日本では「ダメなこと」「いけないこと」のようなイメージのある系列企業グループの強化です。

そして、もう一つは利益の配分です。会社の余剰利益は適切な方法で従業員に配分し、生活の安定も考慮し、「会社の仕事即ち自己の仕事」の観念を徹底する。つまり、従業員の生活の安定には充分配慮し、社員が安心できる環境を作り、利益を社員に分配することによって、会社の発展が自己の生活の向上につながることを社員全員の共通の認識とする」ことに注力したのです。この経営形態であれば、全社員の力を社業の発展のために集中することができるので、会社の業績が伸びていくのもうなづける話です。

ところが、今でもその経営方針が維持されているかというと、残念ながらそうなっていないのではないかと思うのです(あくまでも外から見た私見ですが)。

今、ソニーの会社組織は、会社法でいう「委員会等設置会社」という形をとっています。従来の日本型の組織である取締役会と監査役会がある形から、米国型である「委員会等設置会社」に2003年に移行しました。「さすが、ソニーは会社の経営組織も先進的である」というイメージをこの移行時に印象付けました。

米国人を社長とし、社長の報酬が8億円余りであることも公開され、話題になりました。米国流の経営に移行しようとしていたのでしょう。

昨今、企業統治のあり方、いわゆるコーポレートガバナンスについての議論が盛んに行われています。

日本の従来型の経営組織では、世界の競争には勝てない。経営陣が適切な経営を行っているか、社外の眼で厳しくチェックし、企業の収益性向上のために会社の資源が有効に活用されるようにしていかなくてはならない。日本企業の経営陣には社外の役員がおらず、もしくはグループ会社で役員の送り込みをお互いに行っているので、厳しいチェックがされていないために、欧米の会社に比べて収益力が低いという批判がずっとなされています。

その声にいち早く反応し、会社組織を米国流に変更したのがソニーでした、しかし、ご承知の通り、その後のソニーの業績はあまり芳しいものではありません。むしろ、日本型の会社組織を維持している他の会社の方が、業績の回復・収益性改善は上回っています。

ただ、私はここで日本型の会社組織が優れていて、欧米流が劣っているというつもりはありません。しかし、会社の組織が日本型がダメで、米国型が優れているという単純な理屈も成り立ちません。どちらが優れている、劣っているということではなく、自分の会社の社風や経営方針には、どのような組織がふさわしいのかを各会社で考え、組織を作って貰えたら良いと思います。

6月に閉会した通常国会では、会社法の改正が行われました。その会社法改正での主な論点の一つに、社外取締役の複数選任を義務付けるか否かという点がありました。私は義務づける必要はないという立場で党内の議論に加わっていました。しかし、党内での議論を主導している先輩議員たちは、「複数の義務づけをすべき」という立場でした。その理由は、先程書いた通り「日本の経営陣は社外の監視の眼がないから経営が甘く、不祥事も起こるし、収益力でも欧米の会社に勝てないのだ」というものです(ちょうどみずほ銀行の不祥事もありました)。

しかし、社外の取締役がいたら、経営効率が上がり、不祥事が防げるというものでもないと思います。それこそ、それぞれの会社が自由に決めていけば良い。規制緩和、規制緩和と常日頃は言っているのに、なぜ社外取締役についてのみ規制を強化しようとするのか、その理由が分かりません。結局、会社法改正は、「社外取締役一名選任するべき。もし社外取締役を選任しない時は、理由を説明せよ」ということになりました。

何かにつけ欧米式は優れていて、日本式は時代遅れであるという議論がよく行われています。しかし、日本人の気質・風土に合った、そして日本の社会全体の発展に貢献するような会社経営をして頂きたいと思います。株主利益の最大化を目標とするような会社経営では、社会全体をより良くするような結果はもたらさないでしょう。

-「ひろしの視点」第3号(2014年10月)-